「安曇野」の名の由来については以前このブログでも取り上げてみました。
「安曇族③」
そして、「安曇野」の名を広く知らしめたものに、臼井吉見 の小説『安曇野』があげられます。
※ ちなみに、安曇野市が誕生したのは2005年(平成17年)になります。
絶版となっていた『安曇野』の復刊本が販売されるということで、早速安曇野の堀金に出掛けました。
復刊本の販売開始は 3月2日(日) の正午。場所は安曇野市文書館。
勇んで出掛け、1番乗りで購入しました。
安曇野市文書館は、安曇野市堀金支所の隣りにあり、安曇野市の歴史的な文書や資料を保管・展示している施設です。




全5部作、原稿用紙約5,600枚からなる長編大河小説です。
10年かけて1974年に完結しました。
主な登場人物は、
新宿中村屋を創業した 相馬愛蔵と良 (黒光) の夫妻
近代彫刻の先駆者の 荻原守衛 (碌山)
私塾「研成義塾」を創設した教育者の 井口喜源治
社会運動家の 木下尚江
の5人※です。
この5人を中心に、明治30年代から昭和までの激動する社会、文化、思想を描いています。
舞台は安曇野から東京、さらには米国、フランスまでと広がります。
※
相馬 愛蔵 (そうま あいぞう) …… 安曇野出身 (1870-1954)
相馬 良 (そうま りょう) …… 仙台出身 (1876-1955) 別名:黒光 (こっこう)
荻原 守衛 (おぎはら もりえ) …… 安曇野出身 (1879-1910) 別名:碌山 (ろくざん)
井口 喜源治 (いぐち きげんじ) …… 安曇野出身 (1870-1938)
木下 尚江 (きのした なおえ) …… 松本市出身 (1869-1937)
小説に登場する人物は、なんと総勢2,000人を超え、ほぼ全員が実名で書かれています。
それぞれの人物は、不思議な縁でつながり、複雑に関係し合っています。
板垣退助、田中正造、芥川龍之介、太宰治…… ページをめくれば、知っている人物が登場します。
文学史・美術史・社会思想史を内包した、壮大な近代日本のドラマと言えるのです。
小説の物語は、現在の安曇野市穂高で始まります。
安曇野市堀金出身です。
単行本『安曇野』のカバーのそでに掲載された著者プロフィールより紹介します。
編集者、評論家、小説家。
旧制松本高校を経て東京帝国大学国文科卒業。
旧制伊那中学、松本女子師範学校などで教員を務めた後、古田晁、唐木順三、中村光夫らと1940年、筑摩書房を創立。
戦後、『展望』を創刊し編集長として論壇に新風を送る一方、自らも評論、小説に健筆をふるう。
『近代文学論争』(筑摩書房)で芸術選奨文部大臣賞(1956年)を、『安曇野』(全五巻、筑摩書房)で谷崎潤一郎賞(1974年)を受賞。
小説『安曇野』は、1964年から1973年にかけて雑誌連載として執筆されました。
1974年、筑摩書房から単行本の第5部が刊行されて完結しました。1987年には文庫版も出版され、多くの読者に親しまれてきましたが、既に絶版となり、気軽に読むことができないでいました。
完結50周年を機に「安曇野の魅力が描かれた『安曇野』を復刊し、次世代につなぎたい」という思いから、文庫版が復刊することになったのです。
「臼井吉見文学館」(安曇野市堀金)を支える友の会と、小説『安曇野』を読む会の2団体が市に要望書を提出し、その取り組みが本格化していきました。
2024年5月~8月にかけて、多くの人から寄付を募るクラウドファンディングが実施され、復刊本の制作作業が行われて遂に完成したのです。
当初の目標額1,000,000円を上回り、計296万6000円の寄付が集まり、『安曇野』を1,100セット復刊することができました。
内、400セットは地域の図書館や学校などに寄贈し、700セットを一般向けに販売することになりました。(700セットの内、市が500セットを一般販売し、200セットは筑摩書房が書店やインターネット通販を通じて販売します。)
臼井吉見文学館は、堀金支所の隣りにある堀金中央公園の一角にあります。
「安曇野」の名を普及させるきっかけとなった小説『安曇野』の原稿約5,600枚、絶筆となった激動する幕末の変動期の政局と青年群像のドラマを描いた長編小説『獅子座』の原稿約3,000枚、他書籍約700冊を展示保存しています。また、臼井吉見が発行した同人誌『高嶺』や『輪舞』、検閲で発行停止となった『鳩の巣』などの同人誌、戦後いち早く編集長となって発行した『展望』や書籍なども展示しています。


■ 追記
復刊本販売開始となった3月2日 (日) にはお披露目・販売会が堀金総合体育館で開かれました。
小説『安曇野』のNHK大河ドラマ化実現に向けての取り組みも行われています。
肝心の小説の中身については、また別の機会に触れたいと思います。