有明山に鬼が出る !?

昔、この地域の子どもたちは、両親からそう聞かされていたらしいけど、鬼が住んでいたの?
穂高有明を中心として周辺の地域に広く言い伝えられていたんだ。
その話は「八面大王伝説」と呼ばれていたんだ。
八面大王というのは魏石鬼 (ぎしき) の別名なんだ。

大王って呼ぶくらいだから強いんだろうね。
良い鬼なの? 悪い鬼なの?
それは鬼伝説と英雄伝説の両方があるんだ。
今回は鬼伝説についてお話しよう。
まず、どこに鬼が住んでいたか、地図で確認しておこう。
有明山神社の隣りに真言宗の正福寺が建っています。


その本堂を右手に進むと、細い山道が続いています。


山道を進みます。道に沿って並べられている石仏を眺めながら、しばらく進んでいくと、美しい佇まいの観音堂が現れます。
観音堂の下に降りると、巨石の岩が現れ、そして洞窟が見えてきます。


洞窟の真上に、先ほどの観音堂が建っていたわけです。
これが魏石鬼(ぎしき) の岩屋(いわや) と呼ばれる、八面大王という鬼が立てこもった隠れ屋だと伝えられています。


さらに、その岩屋から下に降り、沢を越えて目に入ってくるのが
鬼の足跡 (八面大王の足跡岩) といわれる、これもまた大きな岩です。家来の小鬼が住んでいたともいわれています。
■ それでは八面大王の鬼伝説を見ていこう
村人は、鬼からの乱暴を恐れ、毎日びくびく暮らしていた。
近くの古厩村の矢村に、おさくと弥助 (やすけ) という母子が住んでいた。 父の弥左衛門は、弥助が小さい頃、有明山へ薬草を採りにいったまま八面大王に襲われて帰ってこなかった。 母の手一つで育てられた弥助だが、心優しくすこやかに成長していった。
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758年~811年
平安時代に活躍した武将で、武術に秀でており、数多くの戦いで功績をあげた。
桓武天皇より征夷大将軍に任命される (797年)。
大和朝廷が異民族と見なしていた東北地方に住む「蝦夷(えぞ、えみし)」を平定した。
ただし、将軍がこの地に実際に立ち寄ったかは定かではない。
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将軍は山鳥の矢を弓につがえ、心中に「南無観世音(なむかんぜおん)」と祈って矢を放った。 矢は大王の胸板を射通し、大王は雲の中からまっさかさまに落ちた。 二の矢は常念の両股に当たり、常念は岸壁から落ちた。
将軍は大王の首を、鬼切丸(おにきりまる) の名刀で斬り落とした。 二重の箱に納められた大王の遺骸は「八面大王大明神」の旗を立てて里に持ちくだり、安曇野で最も低い湧水の地である塔ノ原 ※2 に塚を築き葬られた。 子分の常念は坊主となり、烏川の谷を登り、常念(坊)岳から八面大王の菩提をとむらった。 将軍は有明宮城の魏石鬼の岩屋の上に、観世音の堂 ※3 を建立した。 そして将軍は、弥助の名は矢助に、その村を矢村 ※4 にするように告げた。 こうして、安曇野の村々にようやく平和が戻った。
「安曇野で最も低い湧水の地である塔ノ原」とは、現在の御宝田(御法田)一帯をさしていると考えられる。
また、大王の頭は「頭(塔)の原」へ埋めたとされ、ここから「塔ノ原」の地名が生まれたとも言われている。




首は筑摩神社 (つかまじんじゃ) (※1) に埋葬 (首塚)
耳は耳塚 (みみづか) (※2) 埋葬
脚は立足 (たてあし) (※3) 埋葬
胴体は御法田(ごほうでん) のわさび畑 (別名大王農場) (※4)
大王は敗戦とともに白狐と化し、犀川に近い川島の郷(穂高)に逃げたが、ここで捕まり首をはねられたので、川島の郷を狐島 (きつねじま) (※5) と呼ぶようになった。
大王をとむらい念仏を上げた際、常に念仏が聞こえる山、それが安曇野の空高くそびえる常念岳(じょうねんだけ) である。


筑摩神社はかつては「八幡宮」と称していた。創建は延歴13年(794)。
坂上田村麻呂は、八面大王を退治するために石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう) に参籠(さんろう) し、「この地に八幡宮を祀れば大願成就(たいがんじょうじゅ)する」との神託をうけて建立。その結果、見事に八面大王を退治することができた。
再び蘇らないように、筑摩神社の境内に首を埋めた。
現在は、八面大王の首塚は「飯塚」 の名で呼ばれている。
また、社号も地名ではなく 「塚摩」が転じて「筑摩」となったという説もある。


大塚神社は現在、地元では "耳の神様" で有名となっている。祠の中には、たくさんの "耳かき" が供えられているとのこと。
その昔、この地に住む夫婦の息子が高熱を出し、その結果、耳が聞こえなくなってしまった。そこで、大塚神社にお参りしたところ、大塚様が夢の中に現れ、祠の中にあるウツギ(落葉低木)の枝に竹を刺して耳かきを作り、それで耳を掘るようにとのお告げがあった。その通りにすると、なんと耳が聞こえるようになったという伝承があった。
(大王神社については次回述べます。)


狐島にある白狐神社(びゃっこじんじゃ) (左) と 八面大王の塚 (右)


今回は八面大王の「鬼伝説」をお伝えしました。
次回はもう一つの「英雄伝説」をお伝えしましょう!