須藤康花展

■ 須藤康花 光と闇の記憶

 

【番外編】
安曇野の話題からは離れますが、特別に報告します。


松本市美術館で開かれている須藤康花 (すどう・やすか) を鑑賞してきました。

 

(注意)
本記事で用いている写真は全て展示会場で撮影したものです (使用許可済)。
文章は展示説明用キャプション、展覧会用リーフレット、冊子「須藤康花 光と闇の記憶」 (松本市美術館発行) 等を参照させていただきました。

<2001年(23歳)、長野県麻績村の自宅で>


闘病の末、30歳という若さが夭折(ようせつ)した画家・須藤康花 (1978~2009年)。
没後15年を迎える年、須藤康花の全貌に触れることのできる展覧会でした。
まさしく、「光と闇の記憶」です。

<展示会場内>


須藤にとって最愛の母が思春期に他界、本人も病魔との永い闘いを強いられます。
生と死との葛藤の間で、絵や詩を通して "光" の世界を追い続け、自らの心の底知れない "闇" と対峙し続けます。
幼少期に難病を発症し、病や死への意識を創作活動に昇華させようとした作品は難解を極めます。
死期を予感する中で描かれた人物、自画像、心象風景や自然風景、そこに込められた歓びと苦悩、希望と絶望、生と死。
死別した母親への贖罪意識や数々の文学や映画に親しむ中で深めた哲学的思考も世界観に影響したのです。

<2001年頃(23歳)頃 「夢幻2」>

 

年譜を追って


1978年9月15日、福島県に生まれます。
その後、大学で教鞭をとる父親の転勤に従い、横須賀市、札幌市、沼津市、東京、長野県麻績(おみ)村へと転居します。
横須賀に在住した幼少期の頃
1980年2歳のとき、4月に物心つく前に弟を亡くし、12月に自身も難病のネフローゼ症候群を発症し、以後、入退院を繰り返しながらの生活を余儀なくされます。
1987年9歳のとき、北海道札幌市に転居します。
両親の愛情を一身に受け、絵を描くことが得意な子供として、穏やかな時間を送ります。
特に母親は、常に娘を傍で支え続けます。
難病を抱えながらも、母と過ごす時間は穏やかで幸福な日々であったのです。

<(左) 1990年(12歳) 「私の家族」  (右) 1991年頃(13歳頃) 「父と母」>

 

1993年、3月に慢性肝炎を発症します(この時、14歳)。
そして8月、最愛の母が同じく慢性肝炎で闘病の末に他界します。
最愛の母の死は、生活環境だけでなく、彼女の心にも大きな変化を与えることになります。
体調はより深刻な状態となっていきます。
生と死との葛藤の間で絵や詩を通して、自らの内面と対話し続けていきます。
母の死後、須藤は父あての遺書をしたため、命を絶つつもりでいたのです。
しかし、それを留まらせたのは、母の存在でした。
自分の看病にすべてを捧げてくれた母の壮絶な死を無駄にしてはならない、という贖罪に近い思いが須藤を生の世界に踏みとどまらせたのです。
そして、描き続けることで、自分の存在する意味を見出すことを決意するのです。

1994年静岡県沼津市に転居し、本格的に絵の道へ進むべく沼津美術研究所に入所します。

 

1995年、古き良き日本の「静」と「闇」の世界を油絵で表現したいと決意し、その後一貫してその目標を追求していきます。


 

1997年19歳、東京都江東区に転居します。
2001年23歳、多摩美術大学版画科に入学します。
そして、週末には長野県の麻績(おみ)で父とともに農作業を始めます。
この地では体全体を使って汗を流し、近所の子供たちに絵を教え、これまで感じることがなかった生きる歓びがあったのです。
季節の移ろいを肌で感じながら、制作に取り組める麻績村は、須藤にとって大切な場所となりつつありました。

<2005~2006年 麻績村での制作>


2005年27歳、多摩美術大学版画科を卒業し、同大学院に入学します。
2007年29歳のとき、3月、体調の悪化から、多摩美術大学院の修了式の当日、式への出席を断念し、検査を受けます。
そして、肝臓に癌発症と告知され、5月摘出手術を受けます。それは母の命を奪った病でもあったのです。
その後、入退院を繰り返します。
自らの生の終わりをさらに強く意識しながらも創作に没頭していきます。



<2006年頃(28歳頃) 「最果て」>


2009年5月10日、癌により自宅にて死去。
尊敬してやまなかったアンドリュー・ワイエス(画家) のカタログが枕元に置いてありました。享年30歳8ヶ月

 

父に暗示した2作品



<2003年頃(25歳頃) 「花火」>

<2006年(28歳) 「悪夢」>

 

自画像
展示会場は次の8つの章(コーナー)で構成されていました。
第1章 幼少期 穏やかな日常
第2章 母との死別 模索
第3章 憧憬 光の世界へ
第4章 葛藤と吐露
第5章 自画像
第6章 安らぎ -麻績村での暮らし-
第7章 堆積する想い
第8章 光と闇の記憶


「自画像」のコーナーから何枚かピックアップしてみます。




 

遺作

遺作の一つと考えられる作品です。
画家・須藤康花の到達点の一つにあるのではないかと言われています。
中央に会話をする二人の姿が見られます。

<2008年頃(30歳頃) 「流転」>


あまりにも短すぎる生涯に残した作品と詩(会場の壁に描かれています)が静かに私達の心に呼び掛けているのを感じました。

 

是非、須藤康花展に足を運んでみてはいかがでしょうか。
  ( 松本市美術館 2023.12.9 ~ 2024.3.24)
期間外の場合、松本市にある 須藤康花記念美術館 で作品が鑑賞できます。